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2011年7月 7日 (木)

心の整理

 (前回7/6のつづき)

 手術後1ヶ月となる6月27日に、手術を執刀してくださったS教授の診察を受けた。そこで初めて、摘出された肺の写真(7/6掲載)を見た。それを見ると、手術後ずっと疑問に思っていたことの答えがわかってきた。

●なぜ腫瘤だけを小さくとる部分切除ではなく、左肺上葉の舌区をすべて切除したのか?

 「腫瘤の位置が動脈に近かったため」と、入院中に説明されたが、実物を見ない状態では腑に落ちなかった。
  写真を見ると、腫瘤はたしかに気管支の根元近くにあり、気管支の根元には動脈があることも納得できる。
 「あやまって動脈を切ってしまえば、その奥にある肺胞もダメージを受けて働かなくなり、小さく切除しても意味がないのです」と、S教授は説明してくれた。
 それでもがんでなければ小さく取ってほしかったという思いは残るが、技術的に難しいならば仕方がないだろう。

                              (補足) 左肺上葉の舌区           (出典1出典2Lobe

 手術後に感じた疑問が、もうひとつあった。
●「95%以上がんだろう」と言われて手術を受けたが、がんではなかったというのはどう理解したらいいのか?

 S教授に率直に伺ったところ、次のような答えだった。
・私も95%ぐらい肺がんだと思った
・そうは言っても、残りの5%に入ることがある
・抗酸菌感染症の可能性もあったが、がんと区別ができないため、手術がベターだった
・今回は幸いにがんでなかったが、もしがんであった場合、手術が遅れれば手遅れになる可能性があった
・(手術前に)がんとそうでないものとを100%鑑別することは、永遠にできないだろう

 つまり、今回のような肉芽種とがん細胞を、開胸手術することなしに100%鑑別することは不可能ということだった。
 S教授は肺癌手術の名医として多くの本で紹介される方で、その手術件数は数千件におよぶという。がんの疑いで手術をして、がんではなかった症例も少なくはないそうだ。だが手術をした患者の多くは、本当にがんだった。そのS教授が95%の確率でがんと判断したのなら、それ以上の診断は望むべくもなかったと思うしかなかった。

 ネットで検索すると、がんに侵された肺の写真がいくつか見つかる。日本病理学会の病理各論コア画像というページに、僕が疑いをもたれたものと同じ肺腺がんの写真がある。これを見ると、肉芽種もがんも色は同じように白っぽいが、その質感や中央の乾酪壊死巣の存在など、素人が見ても異なる点がある。しかし、目で見れば明瞭なこの違いを、X線やPETなどの間接的な方法では、見分けることができないのだ。そして、より精度のよい肺がん診断方法は、現状では手術以外に存在しない。
 造影CTで撮影した「見えない影」の画像を載せておこう。

X2s_4

Y1ss_7

Z1ss_4    

 これらの画像には、腫瘤が胸膜を引きこんでいる様子が見られる。これは、周囲の栄養を取りこんで無秩序に増殖するがん細胞の特徴だという。そのためこの腫瘤は、感染症による炎症等ではなく、がんの疑いが強いと判断された。
 このほかに、PET-CT検査でブドウ糖の接種率SUVが7.8もあったので、がんの疑いがより強いと判断された。PETの画像というのは、黒く写った全身写真に、がんと疑われる箇所だけがオレンジ色に光る不気味なものだ。(PET画像を入手するには、カルテ開示の手続きが必要とのことで、すぐには手に入らなかった)

 この「影」に対して、気管支鏡や針生検で開胸手術せずに組織を調べる方法は、もちろん検討された。しかし、病変が小さくて奥にあるため、確実に組織を採取できる保証がなく、そのうえもし採取した組織にがん細胞がなくても、がんを否定できないという。そのため、気管支鏡や針生検をやっても仕方がないという結論になった。

 95%以上という大きな確率ではなく、半分以上の確率で肺がんだと言われたとしても、乳幼児2人をもつ父親としては、手術をしないという選択はなかったと思う。
 がんのなかでも特に生存率が低いと言われる肺がんで、手術を受けられる時期は、病状の初期だけなのだ。体中の血液が集まる肺のがんは、転移が早期に起こりやすい。肺の外に転移してしまったら、手術をしても無意味なのだ。手術ができなければ、根治の可能性が低い抗がん剤や放射線治療を受けるしかない。
 肺がんの可能性が高いなら、1日でも早く手術を受けることしか考えられなかった。主治医の意向に反して、セカンドオピニオンを受ける余裕などなかった。
 肺の一部を失ったのは無念だが、手術を選択したことと、結果的にがんではなかったことは、仕方がなかったと思わざるをえない。

 今回の診察で、S教授に質問したいことはすべて聞くことができた。突きつめれば疑問は残るが、肺を切ってしまった以上、切らずにすむ方法はなかったかと後から考えても虚しさが増すばかりだ。
 何よりも、僕の体はどんどん回復している。退院してから今日までの1ヶ月間、毎日ウォーキングをして、最近は早足で歩けるようになった。もう1ヶ月もしたら、走れるのではないかと思う。
 S教授の言葉のなかに、嬉しいものがあった。肺を小さく切除した患者の場合は、肺の機能がほとんど変わらない人が多く、むしろ良くなる人さえいるというのだ。正確な理由はわからないが、肺の手術をした患者は、肺の働きを意識するようになるからではないか言っていた。
 それならば自分にもありえるのではないか。希望のもてる話だった。

 S教授に感謝の言葉を伝えて、病室を出た。
 そして、すぐに妻へメールした。
「がんの可能性はゼロとのこと。これからも家族4人で生活できる」
 数十秒後には返事がかえってきた。
「あぁ~良かった…ほんとに良かった…。安心した。 じゃあ今日はお祝いだね。焼き魚じゃダメだ。」
 僕には素晴らしい家族がいる。そのかけがえのなさを、42歳になって初めて実感した。
 今回の病をふりかえると、自分の生活や仕事において、いくつかの遠因があったように思う。なにかを変えねばならないという合図なのかもしれない。
 病気がなく惰性の生活を送っていたよりも、得るものが多かった。いつか、そう思いたい。
 再び与えられた命を大切にして、もう一度歩きだそう。一度暗くなりかけた眼前に、以前とは少し違う地平線が広がっている。

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 このブログは、
「がんになって残された時間が限られるなら、病とどう向き合ったかを書き残さなければならない」、
「とまどいや悩みを、できるだけそのまま記しておきたい」、と考えて始めた。
 幸いにもがんではなかったが、病とどう向き合ったかをできるだけ率直に書いたつもりだ。
 正確に、詳細に、と思うあまり力が入り、また往来の遅筆もあり、すべての出来事を書き記すことはできなかった。身内からは、とぎれとぎれで読みにくいとの叱責をうけた。読んでくださった方に申し訳ない。
 書き残した内容は、次の3つだ。

●4/18(最初の診察)~4/27(PET検査)
 どこの病院で診察を受けるか悩む。山岳部先輩のM医師やT大病院のO院長のすすめで、順天堂医院を選ぶ。最初の診察で、肺がんの可能性が高いことを告げられた。とまどいながらも、手術を受けることを決めた。

●5/9(PET結果)~5/25(入院前日)
 結核の可能性もあると考えていたなか、95%以上の確率で肺がんと告げられて、衝撃を受ける。M医師とO院長の真摯なアドバイスのおかげで、手術を受ける以外の選択はありえないと、気持ちを落ちつけることができた。手術の日までにやることを決めて、家族と過ごす時間を大切にした。

●5月30日(入院5日目)~6月5日(退院)
 胸のドレーンをはずすのに一進一退する。S教授やM助教に、手術についての質問をした。病室で、3人の肺がん患者の方々と同室になった。

 今回の更新で、このブログはいったん終了することにします。
 この度の出来事について、心の整理がある程度できたということが理由のひとつです。
 再び気持ちが高まったら、不定期に更新するかもしれません。
 これまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

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コメント

こんにちは。主人が肺に影があるといわれ、CTでもひっかかり再検査の予定です。子供も生まれたばかりで不安がつのります。ブログを読ませていただき、勇気がもらえました。家族の大切さが身に沁みます。

コメントをありがとうございました。
お子さんが小さいとのことで、本当に不安だと思います。
ぼくの場合は、家族の応援が何よりも大きな励みになりました。
そして、信頼してくれる家族の存在が、底知れない恐ろしさにむかう力になりました。
何があってもあきらめずに、支えてあげてほしいと思います
良いお知らせをお待ちしています。

その後いかがお過ごしでしょうか?
突然のコメントすみません。
41歳女性です。
癌の可能性が0ということで
本当に良かったです(*^^*)
小さいお子さんもいらっしゃるなか
とても心配されたことでしょう。
私は来週CTを撮りに行く予定です。
少し不安ですが‥少し勇気をもらいました。
ありがとうございましたm(._.)m
お身体大事になさってくださいね。

コメントをありがとうございます。
その後はヒマラヤに何度も出かけて、手術前とほとんど変わらずに過ごしています。
CTを撮る前は不安ですよね。
なにも問題ないことを願っています。

先日コメントさせて頂いた
41歳の女性柳沢と申します。
CTの結果は問題ありませんでした。
本当にホッとしました。
ありがとうございましたm(._.)m

柳沢さま、よかったですね。
これからも健康を大切にして生きてゆきましょう!

はじめてコメントします。
5日後に非結核性抗菌症で手術をうけます。
右上葉に1.5cmほどの空洞が発見され、まわりにも菌があるとのことで、上葉切除となりました。
私はまだ34才で、小さな子供が3人いますので、まだ死ぬわけにはいかない、切ることで平均寿命まで肺を元気な状態で保つためならと、覚悟を決めました。でも全身麻酔も初めて、ましてや肺を切り取るなんて怖くて怖くて手術までにおかしくなりそうです。パニック障害、不整脈もちなので、はたして無事に帰ってこられるのかとますます不安になっています。そんななかこのブログをみさせていただき、肺を切り取ってもこれだけ元気でいられる人がいるんだと思い、少し勇気がでました。
本当に家族は素晴らしいですね。こんな時、とても感謝の気持ちでいっぱいになります。
長々とすみません。

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